デザインを多数決で決めるな
我が社がリリースする新しいサービス。それなりの売上げを見込んでいる。プランはかたまった。さあ、ロゴやウェブサイトを用意しなくては。
例えばそんなとき、こんな手順でデザインを決めようとしていませんか?
- クラウドソーシングサイトで複数案あつめる
- そのなかから社内で多数決
もし、そんな方がいらっしゃったら、それはできたらやめていただきたいのです、というお話。
コンペはまだ、やり方を間違えなければいいのです。クラウドソーシングが悪いとも言いません。ただ、多数決からはいいデザインは生まれません。
たくさん提案を集めて多数決を取れば、それで自動的にいいものが生まれると思っている方が増えているようですが、それはデザイナーに言わせると、圧倒的にまちがっています。その理由はこんなもの。
理由1:「本質のほっくりかえし」が必要だから
良いデザイナーほど「教えてちゃん」です。デザイナーという人種は、すぐに「そもそもなんなの?」と聞きます。いっしょうけんめいに担当者から話を聞き出して、そのサービスや会社のことをいっしょになって考えて、どんな色や形がその本質をあらわすのにふさわしいか吟味します。
デザインは、そのようにして生まれるのです。単純にオシャレな色や形を並べるだけではありません。だから、そこに多数決の余地など、本来ないのです。
一方、とりあえず形のととのったものを数点見くらべて、めいめいが「これが好き」と言いあうのが多数決。こうして、サービスの本質とズレたデザインが採用されていきます。
理由2:複数案つのらなければならない時点で終わってるから
そもそも、たくさんの案を「公募」する時点で、集まるデザインは真の意味ではそのサービスに肉薄できないことがほぼ決定しています。
実際にクラウドソーシングサイトを利用するときのことを考えてみてください。ウェブサイトの募集フォームに書かれた1000字程度文章と、それを元にしてできあがってくるデザイン。それは、サービスや会社の本質にたどりつくのにとうてい十分な情報量とはいえません。少ない情報量から生まれたデザインなら、やはりその程度の力しか持てません。
つまり、元から力の弱いデザインしか集まらないから、多数決をしようという話になるのです。
「でも、その中にきらりとひかるものがあるかも!」…って、お思いになりましたか?
そんなギャンブルめいた方法で大切なロゴを決めるなんて私には信じられないですが、その「きらり」だって、それほどすぐれたものではないはずです。
理由3:最低限の文法が無視されるおそれがあるから
多数決は「素人目、なおかつ内輪受けのフィルタ」。これを通すことは、ありえない組み合わせを生む危険をはらんでいます。
現実に、こんな例を見かけたことはありませんか?高級で上品なブランド服のショップのロゴがグラフィティ風だったりとか、年配の方向けのサービスのパンフレットのはずなのに、どうみても萌え系ぽいキャラがあしらってあるとか。
こうした珍妙な例は、ほぼまちがいなく「中の人がそれが好きだから」という理由で採用されています。
デザインに関して素人の方が決をくだすとき、「わかんないけど、私はこれが好きだから」という理由しかいえません。プロ以外はそれしか判断基準をもてないのだから、どうしたって仕方のないことではあります。
ですが、それは正解を導くために必要な情報ではないのです。多数の「好きだから」が集まった結果、サービスの本質を全く表現できないロゴやキャラクターが採用されていきます。
だから、素人に票をもたせてはいけないのです。
解決策は、信頼できる一人のデザイナーにまかせること
じゃあどうしたらいいのか。
ベストは、最初から一人の経験豊富なデザイナーにまかせて、最終決定までリードしてもらうことです。
会社のことやサービスについて根ほり葉ほり聞いてくるようなデザイナーなら、おそらくまかせても大丈夫。もし、望んだようなデザインが生まれないときは、サービスじたいがあいまいさやコンセプトのブレを残しているから、という可能性を疑ってください。
「でも、多数決じゃないと上層部がなっとくしないし…」などとおっしゃる場合は、こんな方法にしてみてください。
- デザインやディレクションの経験がある人間だけに投票権を与える
- そのサービスの開発チームなど、そのことを心から真剣に考えている人間だけで決める
- デザイナーを直接社長にプレゼンさせ、鶴の一声で決めてもらう
そうすれば、すこしはましでしょう。
ついでに、もうひとつたいせつなのは、「デザイナー自身も、多数決されるような仕事には乗らない」ことです。
以上、多数決でデザインを決めるのは良くないというテーマで書いてみましたが、これがすべてにあてはまるとまではおもいません。「女子社員が決めました!」というようなプロセス自体がウリになる場合もあるだろうし、「とりあえずちゃんとしたやつじゃなくていい」「安けりゃそれで」ということもあるでしょう。そういう場合まで否定するつもりではありません。
ですが、「いいデザインはほしいが、お金は払いたくない」という需要は結局満たされないのです。